この血管内皮機能の維持・改善に、直接的に働きかける––すなわち、動脈硬化予防に有効な食品を、協同乳業株式会社 研究所 技術開発グループ が開発しました。その食品とは、ビフィズス菌LKM512 とアルギニン(Arg)を含有するヨーグルトです。では、なぜこの「LKM512+Argヨーグルト」が、動脈硬化の予防に有効なのでしょうか?
細胞の生命活動維持に欠かせない「ポリアミン」
「LKM512+Argヨーグルト」が、動脈硬化予防に有用なことを知るには、まずポリアミンと呼ばれる物質について知る必要があります。
ポリアミンとは、プトレッシン、スペルミジン、スペルミン等の総称で、ひとことで言うならば“細胞の健全さを維持する物質”です。すべての生物の細胞に含まれており、細胞の成長や増殖をはじめ、細胞の生命活動を維持するのに欠くことのできない重要な存在です。
私たちは誰もが、このポリアミン(プトレッシン、スペルミジン、スペルミン)をつくる能力をもっていますが、成長期の終了後は加齢に伴い 、その能力および生体内のポリアミン濃度は減少していきます。そして、60歳前後になりポリアミン濃度が細胞の正常性を維持できないレベルまで減少すると、細胞機能が破綻して、さまざまな機能障害が体に発生し、生活習慣病や老年病が発生するリスクが急激に上昇します。
これを言い換えれば、生体内のポリアミン濃度を健常レベルで維持できれば、動脈硬化など、老化によって引き起こされる病気や疾病のリスクを下げられるといえます。
現に、マウスを使った実験で、ポリアミンの一種であるスペルミジンの経口投与により、 心血管系の健康維持や、肝繊維症、肝細胞癌の予防につながったという報告もされています(※1,2)。
“食事でポリアミンを摂取する”から、 “おなかの中でポリアミンをつくる”へ
私たちヒトが生体内のポリアミン(プトレッシン、スペルミジン、スペルミン)を増やすには、大豆やきのこなどのポリアミンを多く含む食品を摂ることが挙げられます(※3)。しかし、食事由来のポリアミンは一過性のものです。
では、継続的かつ大量にポリアミン(プトレッシン、スペルミジン、スペルミン)を生体に供給するには、どうしたらよいでしょうか。実は、私たちの腸内にいる腸内細菌もポリアミンを作っているので、腸内細菌のポリアミン産生を促進することも、有効なポリアミン供給方法なのです。
そして、協同乳業株式会社 研究所 技術開発グループ(以下、同グループ)による長年の研究で、ついにその技術開発に成功しました。 アミノ酸の一種であるアルギニン(Arg)とビフィズス菌(LKM512菌株)を用いて、腸内細菌叢の代謝をコントロールすることで、ほとんどの日本人で、腸管内のポリアミン濃度を高めることができたのです。
世界初、血管組織に直接的に働きかける動脈硬化予防食品
また、同グループでは、ポリアミン産生促進技術を応用したビフィズス菌LKM512とArgを含有するヨーグルトを用いて、ポリアミンがもつオートファジー促進作用と、抗炎症作用に直接的に関わっていると考えられる血管内皮機能を主要評価項目としたヒト効果判定試験を行いました。
BMIが高めの健常成人(平均年齢45歳)を対象に、1日1カップ(100g)12週間に渡って、「LKM512 +Argヨーグルト」あるいは、LKM512およびArgを含まない通常のヨーグルトを摂取する試験を実施。その結果、「LKM512+Argヨーグルト」のほうで、血管内皮機能の値が危険域から正常域まで回復したことを示す結果が得られたのです。また通常のヨーグルトと比べ、「LKM512+Argヨーグルト」のほうで血圧が低い傾向を示しました(※4)。
血管内皮機能障害は、動脈硬化症の極めて初期症状とされていて、この段階での治療や生活習慣の改善を行うことで、回復が可能と考えられています。これはすなわち、「LKM512+Argヨーグルト」が動脈硬化予防食品として有用であることを示しています。
これまで中性脂肪や善玉コレステロール等、動脈硬化の増悪因子を軽減する食品は多数報告されていましたが、ヒト試験で血管組織に直接的に作用し、改善効果を示した食品は世界初と考えられます。
※1 Eisenberg et al. Nat. Med 22: 1428- 1438, 2016
※2 Yue et al. Cancer Res 77: 2938-2951, 2017
※3 Nishimura et al. J. Biochem 139: 81-90, 2006;Nishibori et al. Food Chem 100: 491-497, 2007
※4 Kibe et al. Sci Rep 4: 4548, 2014 ; Kitada et al. Sci Adv 4:eaat0062, 2018